普段、私達の生活の中で量子力学を意識する事はあまりないでしょう。しかし私達の感覚を越えた極限状態の世界では量子現象が顔を覗かせます。 極限物性とは、その様な条件下での物理を知る、という分野です。

極限状態とは?

極限状態にはどんなものがあるのかご紹介しましょう。

高圧
high_pressure高い圧力を発生させるには、その圧力に耐えられるような「強い」容器が必要です。100万気圧を越える圧力の発生にはダイヤモンドを使います。先端を1ミリ以下に絞りこんだダイヤモンドどうしを向かい合わせて上下から大きな力を加えると、ダイヤモンドに挟まれた空間に高い圧力を発生させる事ができます。この様な装置はDiamond Anvil Cell(DAC)と呼ばれ、超高圧の分野において広く用いられています。地球の中心部の圧力はおよそ300万気圧といわれてます。
強磁場
high_field超伝導線のコイルに電流を流し磁場を発生します(いわゆる電磁石です)。ただし超伝導ですから100アンペアを越える電流を流す事ができます(普通の銅線とかでは発熱で溶けてしまいます)。超伝導状態を保つために液体ヘリウムが必要ですが、「低温」との相性の良さから低温物理の研究室に広く普及しています。当研究室では最大14テスラの磁場を発生する事ができます。1テスラ=10000ガウス。地球磁場は約0.3ガウスです。
低温
low_temperature一般に液体ヘリウムを用います。液体ヘリウムは沸点が1気圧で絶対温度4ケルビン(約摂氏マイナス269度)、さらに減圧する事で約1ケルビンの低温が得られます。またヘリウムには巷でよく見掛ける質量数4のヘリウムの他に質量数3の同位元素があり、これを用いると約0.3ケルビンまでたどり着けます。さらに低温をつくり出すにはヘリウム3とヘリウム4の性質の違いを利用した希釈冷凍という方法を用います。この方法で約0.01ケルビンという低温が実現できます。希釈冷凍機は市販の装置もあり、低温物理の研究室としては最もポピュラーな温度域といえます。当研究室では実験目的に応じて数台の希釈冷凍機が稼働しています。絶対零度は約摂氏マイナス273度です。

極限状態でどんな研究をしているの?

当研究室では「高圧」、「強磁場」、「低温」といった複合極限条件を用いた次のような物性測定をしています。

元素の超伝導探索
元素には超伝導になるものとそうでないものがあります。しかしそれは1気圧のもとでのこと。超高圧・極低温の技術を用いて圧力下で探索すると、酸素までもが超伝導になることが発見されました。究極の目標は水素! 超高圧下では水素金属となり、室温で超伝導になることが理論的に予想されています。高圧下での元素の超伝導についてはJ.J. Hamlinによるレビュー論文によくまとめられており我々の研究成果もたくさん引用されています。周期表の上でながめてみてください
重い電子系の圧力誘起超伝導
研究対象はもちろん元素単体だけではありません。元来、磁性超伝導は相反する性質として理解されてきましたが、たとえばUGe2では強磁性と超伝導を同じ電子が担っていると考えられています。近年、高圧力下で物性を制御することにより、このようなエキゾチックな超伝導が次々に発見されています。われわれの高圧・極低温技術を用いて、より広い圧力・温度領域で超伝導を探索することにより、さらなるエキゾチックな超伝導の発見が期待されます。
極限生成法の開発
研究対象に近づくため、技術開発も大きなウエイトを持っています。その極限状態を作り出し、それだけでなくそのもとでさまざまな物性研究を可能にしていくことが前述した研究を進める上で不可欠です。